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第六段  与一兵衛住家の段

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dairoku dan
底本の一部

(1996年1月14日現在)
¥T 第六 *
L6¥J三下り哥ハル¥¥みさき/踊{おどり}がしゆんだる程に。¥Jウ中¥¥親仁出て見やばゞんつ。¥Jハル¥¥ばゞんつれて親仁¥J中ハル¥¥出て見やばゞん
つ。¥Jナヲスウ¥¥/麦{むぎ}かつ¥Jフシ¥¥音「ト」の在郷/{ざいご}哥。¥J地ウ¥¥所も名におふ山崎の¥Jハル¥¥小百性。¥Jウ¥¥与市兵衛が/埴生{はにふ}の/住家{すみか}。¥J中ウ¥¥今は
¥Jハル¥¥早の勘平が。¥Jウ中¥¥浪々の身の/隠{かく}れ里。¥Jウ¥¥女房おかるは¥Jスヱ¥¥/寐乱{ねみだれ}し。¥Jハル¥¥髪取「リ」上「ケ」んと¥J中¥¥/櫛箱{くしばこ}の。あか
つきかけて戻らぬ¥Jハル¥¥夫「ト」。¥Jウ中¥¥待「ツ」間もとけし投「ケ」嶋田。¥Jウキン¥¥ゆふにいはれぬ¥Jウ¥¥身の上を¥Jウ¥¥誰「レ」にか。¥J上¥¥つげの
¥J中キン¥¥水櫛に。¥Jハルウ¥¥髪の色/艶{つや}すきかへし。品よく¥Jウ中¥¥しやんと/結{ゆひ}立「テ」しは。¥Jフシ¥¥在所に/惜{おし}き¥Jハル¥¥姿なり。¥J地中¥¥母の/齢{よはひ}
も¥Jハル¥¥/杖{つえ}つきの。¥Jウ¥¥野道とぼ++¥J色¥¥立帰り。¥J詞¥¥ヲヽ娘髪/結{ゆや}つたか。/美{うつく}しうよう出来た。イヤもふ
在所はどこもかも/麦{むぎ}秋時分「ン」でいそがしい。今も/藪際{やふぎは}で若い衆が麦かつ哥に。
親仁出て見やばゞんつれてとうたふを聞。親父殿の/遅{おそ}いが気にかゝり。在口X
いたれどようなふ/影{かげ}も/形{かたち}も見へぬ。サイナこりやまあどふして遅い事じや。わし一/走{はしり}
見て来やんしよ。イヤなふ若い女「コ」の一人「リ」あるくはいらぬ事。殊にそなたはちいさい時から。在
所をあるく事さへ/嫌{きら}ひで。塩冶様へ御奉公にやつたれど。どふでも草/深{ふか}い所に
縁が有やら戻りやつたが。勘平殿と二人「リ」居やればおとましい顔も出ぬ。ヲヽかゝ様の
そりや知「レ」た事。すいた男と/添{そふ}のじや物。在所はおろか/貧{まづ}しい/暮{くら}しでも/苦{く}にならぬ。
やんがて/盆{ぼん}に成「ツ」て。と様出て見やかゝんつ。¥J地ハル¥¥かゝんつれてといふ哥の通「リ」。¥J詞¥¥勘平殿とた
つた二人「リ」。/踊{おどり}見にいきやんしよ。¥J地色中¥¥お前も若い時覚があろと¥Jハル¥¥指合くらぬぐはら娘。¥Jフシ¥¥気もわ
さ++と見へにける。¥J詞¥¥何「ン」ぼ其様に/面白{おもしろ}おかしういやつても。心の中はの。イヱ++/済{すん}でござんす。
主「シ」の為に/祗園{ぎおん}町へ。/勤{つとめ}奉公に行「ク」は兼て/覚悟{かくご}のまへなれど。¥J地色ウ¥¥年寄「ツ」てとゝ様
の/世話{せわ}¥Jハル¥¥やかしやんすが¥J色¥¥そりやいやんな。¥J詞¥¥/少身{せうしん}者なれど兄も塩冶様の御家来
なれば。外の世話する様にもないと。¥J地ウ¥¥親子咄しの¥Jハルフシ¥¥中道伝ひ。¥J地ハル¥¥/駕{かご}をかゝせて急「キ」くるは/祗園{きおん}
町の一文字や。¥Jウ¥¥爰しや++と門「ト」口から。与市兵衛殿内にかと¥J色¥¥言つゝはいれば。¥J詞¥¥是はマア++/遠{とを}
い所を。ソレ娘たばこ/盆{ぼん}。¥J地ハル¥¥お茶上「ケ」ましやと親子して。/槌{つち}で¥Jウ¥¥おいへを/E{はく}人「ン」やの¥J色¥¥/亭主{ていしゆ}。¥J詞¥¥扨
夕部は是の親父殿もいかゐ太義。/別条{へつでう}なう戻られましたか。ヱヽ扨は親仁殿と連「レ」立「ツ」
て来はなされませぬか。是はしたり。お前へいてから今において。ヤア戻られぬか。ハテめんよふな。
ハア/若{もし}/稲荷{いなり}前をぶら付「イ」て/彼{かの}玉殿につまゝりやせぬかの。コレ此中爰ヘ見にきて/極{きはめ}た
通「リ」。お娘の年「ン」も丸五年切。/給銀{きうぎん}は金百両。さらりと手を打た。是の親仁がいはるゝ
には。今「ン」夜中に渡さねばならぬ金有「レ」ば。/今晩{こんばん}/証文{しやうもん}を/認{したゝ}め。百両の金子お/借{かし}なされ
て下されと。涙をこぼしての頼故。証文「ン」の上で半金渡し。残りは奉公人「ン」と引かへの/契
約{けいやく}。何が其五十両渡すと悦んで/戴{いたゞき}。ほた++いふて戻られたはもふ四つでも有ふかい。夜
道を一人「リ」金持ていらぬ物と留ても聞ず戻られたが。但「シ」は道に。イヱ++/寄{よら}しやる所はなふかゝ
様。ない共++。殊に一時も早うそなたやわしに金見せて。悦ばさふ迚いきせきと戻らしやる
/筈{はづ}じやに合点がいかぬ。イヤこれ合点のいくいかぬはそつちの/穿鑿{せんさく}。こちはさがりの
金渡して。奉公人連「レ」ていのと。¥J地色ハル¥¥/懐{ふところ}より金取出し跡金の五十両。¥Jウ¥¥是で/都合{つがう}¥J色¥¥百両。¥J詞¥¥サア渡
す受「ケ」取しやれ。お前夫「レ」でも親仁殿の戻られぬ中「チ」はなふかる。わがみはやられぬ。ハテぐず
++と/埓{らち}の明ぬ。コレぐつ共すつ共いはれぬ与市兵衛の印「ン」形。証文「ン」が物いふ。けふから金で
買切た/体{からだ}。一「チ」日/違{ちが}へばれこ/宛{づゝ}違ふ。¥J地色ウ¥¥どふでかうせざ/済{すむ}まいと手を取て¥Jハル¥¥引立る。マア++¥Jウ¥¥待「ツ」て
と取付母親/突退{つきのけ}はね退「ケ」。/無体{むたい}に/駕{かご}へ押「シ」込++/舁{かき}上る中門「ト」の口。¥Jウ¥¥/鉄鉋{てつほう}に/蓑{みの}
笠打かけ戻りかゝつて見る¥Jハル¥¥勘平。¥Jウ¥¥つか++と¥J色¥¥内に入。¥J詞¥¥駕の内なは女房共こりやマア
どこへ。ヲヽ勘平殿よい所へよう戻つて下さつたと。¥J地ハル¥¥母の悦び其/意{ゐ}を¥J色¥¥得ず。¥J詞¥¥どふでも/深{ふか}い
/訳{わけ}があろ。母者人女房共。¥J地ハル¥¥様子聞ふとおいゑの真「ン」中。¥Jウ¥¥どつかとすはれば¥J色¥¥文字の/亭主{ていしゆ}。¥J詞¥¥ヲウ扨
はこなたが奉公人の御/亭{てい}じやの。/譬{たとへ}/夫{おとこ}でも何「ン」でも。/号{なづけ}の夫「ト」などゝ脇より/違乱妨{ゐらんさまたげ}申「ス」
者/無之{これなく}候と。親仁の印「ン」形有からはこちには/構{かま}はぬ。早う奉公人を受「ケ」取ふ。ヲヽ聟殿合点
が行まい。兼てこなたに金の入「ル」様子娘の咄しで聞た故。¥J地ハル¥¥どふぞ/調{とゝの}へて/進{しん}ぜたいと。¥Jウ¥¥いふた計「リ」
で一銭の¥J色¥¥/宛{あて}もなし。¥J詞¥¥そこで親父殿のいはしやるには。ひよつとこなたの気に女房/売{うつ}
て金/調{ととの}ようと。よもや思ふてゞは有まいけれど。/若{もし}二「タ」親の手前を/遠慮{ゑんりよ}して居や
しやるまいものでもない。いつそ此与市兵衛が聟殿にしらさず娘を売ふ。まさか
の時は切取するも侍のならひ。女房売「ツ」ても恥にはならぬ。お主の/益{やく}に立る金。/調{ととの}へて
おましたらまんざら腹も立まいと。きのふから/祗園{ぎおん}町へおり極めにいて今に戻ら
しやれぬ故。親子案「ン」じて居る中へ親方殿が見へて。夕部親仁殿に半金渡し。
跡金の五十両と引「キ」かへに。娘を連ていのふといふてなれど。親仁殿に/逢{あふ}ての上と/訳{わけ}
をいふても聞入「レ」ず。今連「レ」ていなしやる所どふせうぞ勘平殿。是は++先「ツ」以「ツ」て/舅{しうと}殿
の心づかひ忝い。したがこちにもちつとよい事があれ共夫「レ」は追「ツ」て。親父殿も戻られ
ぬに女房共は渡されまい。とはなぜに。ハテいはゞ親也判「ン」がゝり。/尤{もつとも}夕部半金の五十両
渡されたでも有ふけれど。イヤこれ京大坂を/俣{また}にかけ。/女護嶋{にようごめしま}程奉公人
を/拘{かゝへ}る一文字や。渡さぬ金を渡したといふて/済{すむ}物かいの。まだ其上に/慥{たしか}な事が
有てや。是の親仁が/彼{かの}五十両といふ金を。/手拭{てぬぐ}ひにぐる++と巻「イ」て/懐{ふところ}に入らるゝ。
そりやあぶない是に入て首にかけさつしやれと。おれがきて居る此一「ト」/重{ゑ}物の嶋の
きれで/拵{こしら}へた金財布/借{かし}たれば。やんがて首にかけて戻られう。ヤア何「ン」と。こなた
が/着{き}て居る此嶋の切「レ」の金財布か。ヲヽてや。あの此嶋でや。何「ン」と/慥{たしか}な/証拠{しやうこ}
で有ふが。¥J地ハル¥¥聞よりはつと勘平が/肝先{きも}先「キ」にひしとこたへ。/傍辺{そばあたり}に目を/配{くはり}袂の財布¥J中¥¥見合
せば。¥Jウ¥¥寸「ン」分「ン」/違{ちが}はぬ糸入嶋¥Jハル¥¥なむ三宝。¥Jウ¥¥扨は夕部/鉄鉋{てつほう}で打殺したは/舅{しうと}で有たか。ハア
¥Jウ¥¥はつと我「カ」胸板を¥Jウ¥¥二つ玉で打ぬかるゝよりせつなき思ひ。¥Jウ¥¥とはしらずして¥J色¥¥女房。¥J詞¥¥コレこちの
人そは++せずと。やる物かやらぬ物か。/分別{ふんべつ}して下さんせ。ヲヽ成程。ハテもふあの様に/慥{たしか}
にいはるゝからはいきやらずば成「ル」まいか。アノとつ様「ン」に/逢{あは}いでもかへ。イヤ++親父殿にもけさちよつ
と逢たが戻りは知「レ」まい。フウそんなりやとつ様「ン」に/逢{あふ}てかへ。¥J地色中¥¥夫「レ」ならそふと言「ヒ」もせで¥Jハル¥¥かゝ様「ン」
にもわしにも。¥Jウ¥¥/案{あん}じさしてばつかりといふに文字も¥J色¥¥/図{づ}に乗「ツ」て。¥J詞¥¥七度尋て人/疑{うたが}へじや。
親仁の有「リ」所の知「レ」たのでそつちもこつちも心がよい。まだ此上にも四の五の有「レ」ばいや共にでん
どざた。マア++さらりと/済{すん}でめでたい。お/袋{ふくろ}も御/亭{てい}も六条参りしてちと/寄{よら}しやれ。
サア++/駕{かご}に早うのりや。アイ++これ勘平殿もふ今あつちへ行ぞへ。年「シ」/寄{よつ}た二人「リ」の親達。
どふでこな様のみんな/世話{せわ}。取わけてとつ様はきつい/持病{ぢびやう}。気を付「ケ」て下さんせと。
¥J地ハル¥¥親の死目を露しらず。¥Jウ¥¥頼むふびんさ¥Jウ¥¥いぢらしさ。¥J中ウ¥¥いつそ打明「ケ」有の侭。¥Jハル¥¥咄さんにも
/他人{たにん}有と¥Jスヱテ¥¥心を。¥J中¥¥いためこたへ居る。¥J詞¥¥ヲヽ聟殿。夫婦の別れ/暇乞{いとまごひ}がしたかろけれ
ど。そなたに/未練{みれん}な気も出よかと思ふての事であろ。イヱ++なんぼ別れても。
ぬしの為に身を売「レ」ば悲しうも何「ン」共ない。わしやいさんで行かゝ様。したがとゝ様に逢
ずに行のが。ヲヽ夫「レ」も戻らしやつたらつゐ逢にいかしやろぞいの。/煩{わづ}はぬ様に/灸{きう}すへて。/息
才{そくさい}な顔見せにきてたも。/鼻紙{はながみ}扇もなけりやふ/自由{じゆう}な。何「ン」にもよいか。とばついて
/怪我仕{けがし}やんなと。¥J地ハル¥¥/駕{かご}に乗「ル」X心を付「ケ」さらばや。¥J色¥¥さらば。¥J上¥¥何「ン」の/因果{いんぐは}で¥Jウ¥¥人/並{なみ}な娘を持「チ」。此¥Jウ¥¥悲し
いめを見る事じやと。¥Jウ¥¥/歯{は}を/喰{くひ}しばり泣ければ¥Jウ¥¥娘は駕にしがみ付「キ」。¥Jウ¥¥泣「ク」をしらさじ
¥Jキンフシ中ハル¥¥聞さじと声をも。¥Jハル¥¥立ずむせかへる。¥J地ウ¥¥情なくも¥Jハル¥¥駕/舁{かき}上「ケ」¥Jフシ¥¥道をはやめて急「キ」行。¥J地ハル¥¥母は跡を見
送り¥J中¥¥++。アヽ¥Jウ¥¥よしない事いふて娘も¥Jハル¥¥/嘸{さぞ}悲しかろ。¥J詞¥¥ヲヽこな人わいの。親の身でさへ思ひ切がよいに。
女房の事ぐづ++思ふて。/煩{わづら}ふて下さんな。此親父殿はまた戻らしやれぬ事かいのふ。こなた
逢たといはしやつたの。アヽ成「ル」程。そりやマアどこらで/逢{あは}しやつて。どこへ別れていかしやつた。
されば別れた其所は。/鳥羽{とば}か伏見か/淀{よど}竹田と。¥J地ウ¥¥口から出次第めつぽう弥八。¥Jハル¥¥/種{たね}が嶋の
六/狸{たぬき}の¥J色¥¥角兵衛。¥Jウ¥¥所の/狩人{かりうど}三人連「レ」。¥Jウ¥¥親父の/死骸{しがい}に/簑{みの}打きせて¥Jハル¥¥戸板に乗「セ」。¥Jウ¥¥どや
++と¥J色¥¥内に入。¥J詞¥¥夜山/仕舞{しまふ}て戻りがけ是の親父が殺されて居られた故。/狩人{かりうど}仲「カ」間
が連「レ」てきたと。¥J地ハル¥¥聞「ク」よりはつと驚く母。¥Jウ¥¥何者の/所為{しはざ}。コレ¥Jウ¥¥聟殿殺したやつは何者じや
敵を取「ツ」て下されのふ。¥J詞¥¥コレ親父殿++と。¥J地ハル¥¥よべど¥J上¥¥さけべど其かひも¥Jキンフシノル中¥¥泣「ク」より。¥Jハル¥¥外の事ぞなき。
¥J地ウ¥¥狩人共¥J色¥¥口々に。¥J詞¥¥ヲヽお袋悲しかろ。代官所へ願ふて/詮義{せんぎ}して/貰{もら}はしやれ。¥J地ハル¥¥/笑止{せうし}++と打
連「レ」て¥Jフシ¥¥皆々我家へ立帰る。¥Jハルフシ¥¥母は涙の。¥Jウ¥¥隙よりも¥Jウ¥¥勘平が/傍{そば}へ¥J中¥¥/指寄{さしよつ}て。¥J詞¥¥コレ聟殿。よ
もや++++++とは思へ共合点がいかぬ。なんぼ/以前{いぜん}が武士じや迚。/舅{しうと}の死目見やしやつ
たら。/恟{びつく}りも/仕{し}やる/筈{はず}。こなた道で逢た時。金受「ケ」取はさつしやれぬか。親父殿が何「ン」といは
れた。サアいはつしやれ。サア何「ン」と。どふも返「ン」事は有まいがの。ない/証拠{しやうこ}は。¥J地ハル¥¥コレ爰にと勘平が
/懐{ふところ}へ手を¥Jウ¥¥指入「レ」て引「キ」出すは。¥Jウ¥¥さつきにちらりと¥Jウ¥¥見て置た¥J色¥¥此/財布{さいふ}。¥J詞¥¥コレ/血{ち}の付「イ」て有「ル」からは。
こなたが親父を殺したの。イヤ夫「レ」は。夫「レ」はとは。ヱヽわごりよはなふ。隠しても隠されぬ天/道{たう}
様が明「キ」らかな。親父殿を殺して取「ツ」た。其金にや誰「レ」にやる金じや。ムウ聞へた。身/貧{ひん}な
/舅{しうと}。娘を売「ツ」た其金を。中で半分「ン」くすねて置「イ」て。皆やるまいかと思ふて。コリヤ
殺して取「ツ」たのじやな。今といふ今Xも。/律義{りちぎ}な人じやと思ふて。/欺{だま}されたが腹が立「ツ」はいやい。
ヱヽ爰な人でなし。あんまり/F{あきれ}て涙さへ出ぬはいやい。¥J地上¥¥なふ¥Jウ¥¥いとしや与市兵衛殿。¥Jウ¥¥/蓄生{ちくしやう}の
様な聟とはしらず。¥Jウ¥¥どふぞ元「ト」の侍「イ」にしてやりたいと。年「シ」寄「ツ」て夜もねずに京三/界{がい}を
かけあるき。/珎財{ちんざい}を投「ケ」打て/世話{せわ}さしやつたも。¥Jウ¥¥/却{かへつ}てこなたの身の/怨{あた}と成たるか。¥J詞¥¥/飼{かひ}かふ
犬に手をくはるゝと。ようも++此様にむごたらしう殺された事じやX。コリヤ爰な/鬼{おに}よ
/蛇{じや}よ。とさまをかへせ。親父殿を生「ケ」て戻せやいと。¥J地色ハル¥¥/遠慮会釈{ゑんりよゑしやく}も/あら男の。¥Jウ¥¥/G{たふさ}を
/掴{つかん}で引「キ」寄「セ」++/擲{たゝき}付「ケ」。¥Jウ¥¥づだ++に切さいなんだ迚¥Jウ¥¥是で何「ン」の腹がゐよと。¥J上¥¥恨の数々くど
き立¥Jスヱ¥¥かつぱとふして¥J中¥¥泣居たる。¥J地ハル¥¥身の/誤{あやま}りに勘平も。¥Jウ¥¥五/体{たい}に/熱湯{ねつたう}の/汗{あせ}を/流{なが}し。¥Jウ¥¥/畳{たゝみ}
に/喰{くらひ}付「キ」天/罰{ばつ}と。¥Jフシ¥¥思ひ知「ツ」たる折こそ有「レ」。¥J地ウ¥¥/深編笠{ふかあみがさ}の侍「イ」¥Jウ¥¥二人早の勘平¥Jハル¥¥/在宿{ざいしゆく}をしめさ
るか。¥Jウ¥¥原郷右衛門千崎弥五郎御/意{ゐ}得たしと¥J色¥¥音「ト」なへば。¥Jウ¥¥折悪「ル」けれ共勘平は。¥Jウ¥¥腰ふさぎ¥Jハル¥¥/脇
挟{わきばさん}で¥J色¥¥出/迎{むか}ひ。¥J詞¥¥コレハ++御両所共に。見/苦{ぐる}しき/埴生{あばらや}へ御出忝しと。¥Jハル¥¥頭をさぐれば¥J色¥¥郷右衛門。¥J詞¥¥見れば
家内に取込も有そふな。イヤもふ/瑣細{ささい}な内証{ないしやう}事。お/構{かまひ}なく共いざ先「ヅ」あれへ。¥J地ウ¥¥然らば/左様{さやう}に
致さんとずつと通り¥Jハル¥¥座につけば。¥Jウ¥¥二人が前に両手をつき。¥J詞¥¥此度殿の御大事にはづれたるは。拙「ツ」者
が/重{ぢう}々の/誤{あやま}り。申ひらかん詞もなし。何/卒{とぞ}某が/科{とが}御/赦{ゆる}しを/蒙{かうむ}り。/亡君{ぼうくん}の御年「ン」/忌{き}。諸家中
諸共相/勤{つとむ}る様に御両所の御/執成{とりなし}¥J地ハル¥/偏{ひとへ}に¥Jウ¥¥頼奉ると¥Jフシ¥¥身をへり下り/述{のべ}ければ。¥J地ハル¥¥郷右衛門¥J色¥¥取あへ
ず。¥J詞¥¥先「ヅ」以「ツ」其方/貯{たくはへ}なき浪人の身として。多くの金子御石「キ」/牌料{ひれう}に/調進{てうしん}せられし段。由
良「ノ」助殿/甚{はなはだ}かんじ入「ラ」れしが。石「キ」牌を/営{いとなむ}は亡君「ン」の御/菩提{ぼだい}。殿にふ忠ふ義をせし其方の
金子を以「ツ」て。御石「キ」碑料に/用{もち}ひられんは。御/尊戻{そんれい}の御心にも叶ふまじと有「ツ」て。金子は/封{ふう}
の/儘{まゝ}相戻さると。¥J地ウ¥¥詞の中「チ」より弥五郎/懐中{くはいちう}より金取出し。¥Jウ¥¥勘平が前に指置「ケ」ば。はつと¥Jウ¥¥計「リ」に
気も/転動{てんどう}母は涙と¥Jウ¥¥諸共に。¥J詞¥¥コリヤ爰な悪人「ン」づら。今といふ今親の/罰{ばち}思ひしつたか。
皆様も聞「イ」て下され。親父殿が年寄「ツ」て/後生{ごしやう}の事は思はず。聟の為に娘を売「リ」。金
/調{とゝの}へて戻らしやるを待「チ」ぶせして。あの様に殺して取「ツ」た金じや物。天/道{たう}様がなくはしらず。
なんで御用に立「ツ」物ぞ。¥J地ハル¥¥親殺しのいき盗人に。¥Jウ¥¥/罰{ばち}を当「テ」て下されぬは。¥Jウ¥¥神や仏「ケ」も聞へ
ぬ。¥J詞¥¥あのふ/孝{かう}者おまへ方の手にかけて。なぶり殺しにして下され。¥J地ハル¥¥わしや腹が立「ツ」はい
のと身を¥Jスヱ¥¥投。ふして¥J中¥¥泣居たる。¥J地ウ¥¥聞に驚き両人刀追「ツ」取。¥Jウ¥¥弓「ン」手馬/手{て}に¥Jハル¥¥/詰{つめ}かけ++。¥Jウ¥¥弥五
郎声を¥J色¥¥あらゝげ。¥J詞¥¥ヤイ勘平。/非義{ひぎ}/非道{ひだう}の金取「ツ」て。身の/科{とが}の/詫{わび}せよとは言ぬぞよ。
わがやうな/人非人{にんぴにん}武士の道は耳に入まい。親同然の/舅{しうと}を殺し金を/盗{ぬす}んだ/重罪{ぢうざい}
人「ン」は。大身/鑓{やり}の/田楽{でんがく}ざし。拙「ツ」者が手/料理{れうり}ふるまはんと。¥J地ハル¥¥はつたとにらめば¥J色¥¥郷右衛門。¥J詞¥¥かつして
も/盗泉{とうせん}の水を/呑{のま}ずとは義者のいましめ。舅を殺し取たる金。/亡君{ほうくん}の御用金に
成べきか。/生得{しやうとく}汝がふ忠ふ義の/根性{こんじやう}にて。/調{とゝの}へたる金と/推察{すいさつ}有て。つき戻
されたる由良「ノ」助の/眼力{がんりき}/天晴{あつぱれ}++。去ながら。ハア情なきは此事世上に/流布{るふ}有「ツ」て。
塩冶判官の家来早の勘平。非義非道を/行{おこな}ひしといはゞ。汝計が恥ならず。亡君の
御/恥辱{ちじよく}としらざるか/H{うつけ}者。左程の事の/弁{わきま}へなき汝にてはなかりしが。いかなる天/魔{ま}が
見入「レ」しと。¥J地ハル¥¥するどき眼「コ」に¥Jウ¥¥涙をうかめ事をわけ理を¥J中¥¥せむれば。¥Jウ¥¥たまり兼て勘平。¥Jハル¥¥/諸
肌{もろはだ}押「シ」ぬぎ脇指を。¥Jウ¥¥ぬくより早く腹にぐつと¥J色¥¥/突{つき}立「テ」。¥J詞¥¥アヽいづれもの手前/面目{めんほく}もなき
仕合。拙「ツ」者が望「ミ」叶はぬ時は切「ツ」腹と兼ての/覚悟{かくご}。我舅を殺せし事亡君の御/恥
辱{ちじよく}とあれば一「ト」通り申ひらかん。両人共に聞てたべ。夜前「ン」弥五郎殿の御目にかゝり。別れ
て帰るくら/紛{まぎ}れ山/越猪{こすしゝ}に出合。二つ玉にて打/留{とめ}。かけ寄「ツ」てさぐり見れば。猪には
あらで旅人。なむ三宝/過{あやまつ}たり。薬はなきかと/懐中{くはいちう}をさがし見れば。財布に入たる此金。
道ならぬ事なれ共天より我にあたふる金と。直「ク」にはせ行弥五郎殿に/彼{かの}金を渡し。立
帰つて様子を聞「ケ」ば。打留「メ」たるは我「カ」舅。金は女房を売「ツ」た金。¥J地上¥¥かほどXする事なす事。
¥Jウ¥¥/K{いすか}の/觜{はし}程/違{ちが}ふといふも。¥Jウ¥¥/武運{ぶうん}に/尽{つき}たる勘平が。¥Jウ¥¥身の成「リ」行/推量{すいりやう}有「レ」と¥Jスヱ¥¥/血走{ちばしる}。
眼に¥J中¥¥無念の涙。¥J地ウ¥¥子細を聞より¥Jハル¥¥弥五郎ずんど¥J中¥¥立上り。¥Jウ¥¥/死骸{しがい}¥J中¥¥引上「ケ」打返しムウ++と/疵{きず}
¥J色¥¥口/改{あらた}め。¥J詞¥¥郷右衛門殿是見られよ。/鉄鉋{てつほう}/疵{きず}に似たれ共。是は刀でゑぐつた疵。ヱヽ勘平
早まりしと。¥J地ハル¥¥いふに手/負{おひ}も見て/恟{びつく}り。¥Jフシ¥¥母も驚く計「リ」也。¥J地ハル色¥¥郷右衛門心付。¥J詞¥¥イヤコレ千「ン」崎殿。アヽ是
にて思ひ当つたり。御/自分{じぶん}も見られし通「リ」。是へ来る道/端{ばた}に。鉄鉋受「ケ」たる旅人の/死
骸{しがい}。立寄「リ」見れば/斧{おの}定九郎。/強欲{ごうよく}な親九太夫さへ。見/限{かぎ}つて/勘当{かんどう}したる/悪党{あくとう}者。
身の/彳{たゝずみ}なき故に。山賊{さんぞく}すると聞たるが疑「ヒ」もなく勘平が。舅を討たはきやつが業。ヱヽそん
なりや。あの親父殿を殺したは。外の者でござりますかへ。ハアはつと。¥J地ハル¥¥母は手/負{おひ}に/縋{すか}り。¥J詞¥¥コレ
手を合して/拝{おがみ}ます。年寄「リ」の/愚智{ぐち}な心から/恨{うらみ}いふたは皆/誤{あやま}り。¥J地ハル¥¥こらへて下され勘
平殿。必¥Jウ¥¥死「ン」で下さるなと。¥Jウ¥¥泣/詫{わぶ}れば顔¥J中¥¥ふり上。¥J詞¥¥只今母の疑ひも。我「カ」悪「ク」名も/晴{はれ}
たれば。是を/冥途{めいど}の思ひ出とし。跡より追「ツ」付「キ」舅殿。死出三「ン」/途{づ}を/伴{ともな}はんと。¥J地ハル¥¥突込刀引「キ」
廻せばアヽ¥J色¥¥暫++++。¥J詞¥¥思はずも某方が舅の敵討「ツ」たるは。いまだ/武運{ぶうん}に/尽{つき}ざる所。¥J地ウ¥¥弓
矢神の御/恵{めぐみ}にて。一「ト」/劫{こう}立たる¥Jハル¥¥勘平。¥Jウ¥¥/息{いき}の有中「チ」郷右衛門が/密{ひそか}に見する¥Jウ¥¥物有と。¥Jウ¥¥/懐中{くはいちう}より
一巻「ン」を取出し。¥Jウ¥¥さら++と¥J色¥¥押「シ」ひらき。¥J詞¥¥此度亡君の敵。高「ノ」師直を討「チ」取「ラ」んと神「ン」文を取かはし。一/味{み}/徒
党{ととう}の連判かくのごとしと。¥J地色ウ¥¥/読{よみ}も/終{おは}らず¥Jハル¥¥/苦痛{くつう}の勘平。¥Jウ¥¥其/姓名{せいめい}は誰「レ」々¥J色¥¥成「ル」ぞや。¥J詞¥¥ヲヽ徒党
の人数は四十五人。汝が心「ン」底見/届{とゞけ}たれば。其方を指/加{くは}へ一/味{み}の義士四十六人。是を/冥途{めいど}の
/土産{みやげ}にせよと。¥J地ハル¥¥懐中の矢立「テ」取出し¥Jウ¥¥姓名を¥J色¥¥書「キ」/記{しるし}。¥J詞¥¥勘平血「ツ」判¥J地ハル¥¥心得たりと腹十もんじにかき
切。/臓腑{ざうふ}を/掴{つかん}で¥J色¥¥しつかと押「シ」。¥J詞¥¥サア血判仕「ツ」た。アヽ忝「ケ」や有がたや。我望/達{たつ}したり。母人歎「ケ」いて
下さるな。舅のさいごも。女房の奉公も。/反古{ほく}にはならぬ此金。一味/徒党{ととう}の御用金と。¥J地ハル¥¥いふ
に母も涙ながら。¥Jウ¥¥財布と倶に二/包{つゝみ}二人が前に¥J色¥¥指出し。¥J詞¥¥勘平殿の/魂{たましゐ}の入た此財布。¥J地ハル¥¥聟殿じや
と思ふて。¥Jウ¥¥敵討の御供に連「レ」て¥Jフシ¥¥ござつて下さりませ。¥J詞¥¥ヲヽ成「ル」程尤也と郷右衛門金取/納{おさ}め。¥J地ウ¥¥思へば
++は此金は嶋の財布の¥Jハル¥¥/紫摩黄金仏果{しまわうごんふつくは}を¥Jウ¥¥得よと¥J色¥¥言ければ。¥J詞¥¥アヽ仏「ツ」果とは/穢{けがら}はし。死「ナ」ぬ++。
/魂魄{こんぱく}此/士{ど}にとゞまつて。敵討の御供すると。¥J地ハル¥¥言声も早四/苦{く}八苦。¥Jウ¥¥母は涙にかきくれながら
ナフ¥Jウ¥¥勘平殿。此事を娘にしらし。¥Jウ¥¥せめて死目に逢して¥J色¥¥やりたい。¥J詞¥¥イヤ++++親のさいごは/格別{かくべつ}。勘平が
死「ン」だ事必しらして下さるな。お主の為に売「ツ」たる女房。此事聞てぶほうこうせば。お主にふ忠するも
同然。只其儘に指置「カ」れよ。サア思ひ置事なしと。¥J地ハル¥¥刀の/L{きつさき}/咽{のんど}にくつと/指貫{さしつらぬ}き¥Jフシ¥¥かつぱとふして
/息絶{いきたへ}たり。¥J詞¥¥ヤアもふ聟殿は死しやつたか。¥J地ハル¥¥扨も¥Jウ¥¥++世の中に¥Jウ¥¥おれが様な¥J上¥¥/因果{いんくは}な者が又と一人「リ」
有ふか。¥Jウ¥¥親父殿は死しやる頼に思ふ聟を先「キ」立「テ」。¥Jウ¥¥いとしかはいの娘には生「キ」別れ。¥J色¥¥年寄「ツ」た此母
が¥Jウ¥¥一人「リ」残つて¥Jハル¥¥是がマア。¥Jウ¥¥何「ン」と生「キ」て居られふぞ。コレ¥J詞¥¥親父殿与市兵衛殿。¥J地ハル¥¥おれも一所に連てい
て下されと。¥Jウ¥¥取付「イ」ては泣さけび。¥Jウ¥¥又立上つてコレ¥J色¥¥聟殿。¥J上¥¥母も/倶{とも}にと/縋{すがり}付ては/伏沈{ふししづみ}。¥Jウ¥¥あちら
では泣こちらでは泣。わつと¥Jウ¥¥計に¥Jウ¥¥どふど伏。¥J上¥¥声をはかりに¥Jフシノル中¥¥歎「キ」しは目も当「テ」。¥Jハル¥¥られぬ次第なり。¥J地ハル¥¥郷右衛門
¥J色¥¥つつ立上り。¥J詞¥¥ヤアこれ++老母。歎「カ」るゝは/理{ことは}りなれ共。勘平がさいごの様子。大星殿に/委{くはしく}語り。入用金
手渡しせは/満足{まんぞく}あらん。¥J地ウ¥¥首にかけたる¥Jハル¥¥此金は。¥Jウ¥¥聟と/舅{しうと}の/七々日{なゝなぬか}。¥Jウ¥¥四十九日や¥Jハル¥¥五十両。¥Jウ¥¥合「セ」て¥Jウ¥¥百両百ヶ日の
/追善供養{ついぜんくやう}。跡/{あと}/懇{ねんころ}に/吊{とむら}はれよ¥J色¥¥さらば++。¥Jハル¥¥おさらばと見送る¥J中¥¥涙見返る¥Jハル¥¥涙¥Jノル¥¥涙の。浪の¥Jウ¥¥立返る人も。¥J上¥¥はかなき¥J三重¥¥*

江木鶴子 Mail: egi@ube-c.ac.jp
前田桂子 Mail:maeda@frontier-u.jp