=================

第三段  鎌倉御所の段

=================


daisan dan
底本の一部

(1996年1月14日現在)
¥T 第三 *
L3¥J地ハル¥¥/足利{あしかゝ}左兵衛「ノ」/督{かみ}直義公。¥Jウ¥¥関八洲 の/官領{くはんれい}と/新{あらた}に/建{たて}し御殿の¥Jウ¥¥/結構{けつかう}。¥Jウ¥¥大名小名/美
麗{ひれい}を/餝{かざ}る/公装束{はれしやうそく}。¥Jハル¥¥鎌倉山の/星{ほし}月夜と¥Jウ¥¥袖を/烈{つらぬ}る¥Jウ¥¥御/馳走{ちさう}に。¥Jウ¥¥お/能{のう}役者は裏門「ン」口。
¥Jハル¥¥/表{おもて}御門はお客人¥Jウ¥¥御/饗応{もてなし}の役人衆。¥Jウ¥¥正七つ時の御/登城{とじやう}¥Jフシ¥¥武家の。/威光{ゐくはう}ぞ/耀{かゝやき}ける。¥J地色ハル¥¥西の御
門「ン」の¥J中¥¥見付「ケ」の方。¥J色¥¥ハイ++++と¥Jウハル¥¥いかめしく。/挑灯{ちやうちん}てらし入来るは。¥Jウ¥¥/武蔵{むさし}「ノ」/守{かみ}¥J中¥¥高「ノ」師直。¥Jウ¥¥/権威{けんゐ}を/顕{あら}はす鼻
高々。¥Jウ¥¥花色/模様{もやう}の大紋に。¥Jハル¥¥胸に/我慢{がまん}の立「テ」/鳥帽子{ゑぼし}。¥J中ウ¥¥家来共を役所++に残し置「キ」。¥Jウ¥¥下「モ」部
/纔{わづか}に先「キ」を/払{はら}はせ。¥Jウ¥¥主の/威光{ゐくはう}の召おろし。Dの/真似{まね}する/鷺坂{さきさか}/伴内{はんない}。¥Jハル¥¥/肩臂{かたひぢ}いからし
¥J色¥¥申「シ」お旦那。¥J詞¥¥今「ン」日の御前「ン」表「テ」も上/首尾{しゆび}++。塩冶で候の。イヤ/桃{もゝ}「ノ」井で候のと。日比はとつぱさ
つぱとどしめけど。行義/作法{さほう}は/狗{ゑのころ}を。家根へ上「ケ」た様で。去「リ」とは++腹のかは。イヤ夫「レ」に付「キ」兼々塩冶
が妻かほよ御前「ン」。いまだ殿へ御返「ン」事致さぬ由。お気にはさへられな。/器量{きりやう}はよけれど気が
叶はぬ。何「ン」の塩冶づれと。当時出頭の師直様と。ヤイ++/声{こは}高に口/利{きく}な。主「シ」有「ル」かほよ。度々哥の
/師範{しはん}に事寄「セ」。くどけ共今に叶「ヘ」ぬ。則「チ」彼「レ」が召使「イ」。かるといふ/M{こしもと}新「ン」参「ン」と聞。きやつをこま付「テ」頼「ン」
で見ん。扨まだ/ん{とりへ}が有「ル」。かほよが誠にいやならば。夫「ト」塩冶に/子細{しさい}をぐはらり打明「ケ」る。所を言「ハ」ぬ
は楽しみと。¥J地ハル¥¥四つ足門「ン」のかたかげに主従/点頭{うなづき}咄し合¥Jフシ¥¥折もあれ。¥J地ハル¥¥見付に/扣{ひか}へし侍あはたゝしく
¥J色¥¥走「リ」出。¥J詞¥¥我々見付「ケ」のお腰かけに/扣{ひか}へし所へ。桃「ノ」井若狭「ノ」助家来加古川本「ン」蔵。師直様へ直「キ」に
御目にかゝらん為。早馬にてお屋敷「キ」へ参つたれ共早御/登城{とじやう}。/是非{ぜひ}御/意{ゐ}/得{ゑ}奉らんと。家来
も大勢召「シ」/連{つれ}たる/体{てい}。¥J地色ハル¥¥いかゞ/計{はから}ひ申さんやと¥Jウ¥¥聞「ク」より伴内¥J中¥¥/騒{さはぎ}出し。¥J詞¥¥今「ン」日御用の有「ル」師直様へ。
直「キ」に/対面{たいめん}とは/推参{すいさん}也。¥J地色ウ¥¥某直「キ」/談{だん}と走「リ」行を。¥J詞¥¥待「テ」++伴内子細は知「レ」た。一昨日Dが岡にての/意趣{ゐしゆ}
ばらし。我手を出さず本蔵めに言付「ケ」。此師直が/威光{ゐくはう}の鼻をひしがん為。ハヽヽヽ伴内ぬかるな。¥J地色ウ¥¥七「ツ」
にはまだ間もあらん。¥Jウ¥¥是へ呼出せ仕廻てくれん。¥Jウ¥¥成「ル」程++家来共¥Jハル¥¥気をくばれと。¥Jウ¥¥/主従{しう※※}刀の¥Jウ¥¥目
/釘{くぎ}をしめし。¥Jウ¥¥手ぐすね引「イ」て¥Jフシ¥¥待かけ居る。¥J地ウ¥¥詞に随ひ¥Jハル中ウ¥¥加古川本蔵。/衣紋{ゑもん}/繕{つくろ}ひ/悠々{ゆう++}と¥Jウ¥¥打通り。
下「モ」部に持せし¥Jハル¥¥/進物{しんもつ}共。¥Jウ¥¥師直が目通「リ」にならべさせ¥Jフシ¥¥/遥{はるか}。さがつて/蹲{うづくま}り。¥J詞¥¥ハア/憚{はゞか}りながら師直様へ
申「シ」上奉る。此度主人若狭「ノ」助。高氏将軍より御大役仰付られ下さる段。武士の/面目{めんぼく}身に
余る仕合。/若輩{じやくはい}の若狭「ノ」助。何「ン」の/作法{さほう}も/覚束{おほつか}なく。いかゞあらんと存る所に。師直様万「ン」事御
/師範{しはん}を遊ばされ。諸事を御引「キ」廻し下され候故。/首尾能{しゆびよく}御用相/勤{つとめ}るも/全{まつたく}主人が/手柄{てがら}にあ
らず。皆師直様の御/執成{とりなし}と。主人を始「メ」奧方一「ツ」家中。我々Xも大/慶{けい}此上や候べき。去「ル」によつて近「カ」
比/左少{させう}の/至{いたり}に候へ共。右御礼の為一「ツ」家中よりの送り物。お受「ケ」遊ばされ下さらば。/生前{しやうせん}の/面目{めんぼく}一/入{しほ}願奉る。
¥J地色ウ¥¥則「チ」目録御取次「キ」と伴内に指出せば。¥Jハル¥¥ふしぎそふにそつと¥J色¥¥取押「シ」/開{ひら}き。¥J詞¥¥目録一つ卷「キ」物州本
/黄金{わうこん}三十/枚{まい}若狭助奧方。一「ツ」黄金廿枚/家老{からう}加古川本蔵。同十枚/番頭{ばんがしら}。同十枚
侍中。¥J地ハル¥¥右の通「リ」と/読{よみ}上れば。¥Jウ¥¥師直は明「イ」た口ふさがれもせず¥Jウ¥¥うつとりと。¥Jウ¥¥主従顔を見合せて。
気ぬけの様にきよろりつと。¥Jウ¥¥/祭{まつり}の/延{のび}た六月の/晦日{つごもり}見るが/如{ごと}くにて。¥Jフシ中¥¥手持「チ」ぶさたに見へにける。
¥J地ハル¥¥/俄{にはか}に詞¥J色¥¥改「メ」て。¥J詞¥¥是は++++/悼{いたみ}入たる仕合。伴内こりやどふした物。ハテ扨々ハアお/辞宜{じぎ}申さばお/志{こゝろざし}
/背{そむ}くといひ。第一は大きなぶ礼。ヱヽ/式作法{しきさほう}を/教{おしゆ}るも。こんな折にはとんとこまる。ナニものじやは。
イヤハヤ本蔵殿。何「ン」の師範致す程の事もないが。/兎角{とかく}マア若狭「ノ」助殿は/器用{きよう}者。/師範{しはん}
の/拙者{せつしや}及ばぬ++。コリヤ伴内/進{しん}物共皆取/納{おさ}め。ヱヽふ行義な。/途中{とちう}でお茶さへ得進「ン」ぜぬと。
¥J地色ウ¥¥手の/裏{うら}返す/挨拶{あいさつ}に¥Jハル¥¥本蔵が/胸算用{むなざんよう}¥Jウ¥¥してやつたりと¥J色¥¥猶も手をつき。¥J詞¥¥/B早{もはや}七つの/刻
限{こくげん}早お/暇{いとま}。殊に今日は猶/公{はれ}の御座敷「キ」。/弥{いよ++}主人の義御引廻し頼存ると。¥J地ハル¥¥立んとする¥J色¥¥袂
をひかへ。¥J詞¥¥ハテゑいわいの。/貴殿{きでん}も今日の御座敷の/座並{さなみ}。/拝見{はいけん}なされぬか。イヤ/倍臣{またもの}の某御前「ン」の
/恐{おそれ}。大事ない++。此師直が同道するに。誰がくつといふ者ない。殊に又若狭「ノ」助殿も。何「ン」ぞれかぞれ
小用の有「ル」物。ひらに++とすゝめられ。¥J地ウ¥¥然らば御供仕らん。¥J詞¥¥御/意{ゐ}を/背{そむく}は/却{かへつ}て無礼。¥J地ウ¥¥先おさきへと跡に
付「キ」。¥Jウ¥¥金て/頬{つら}はる算用に。¥Jウハル¥¥主人の命も/買{かふ}て取「ル」。¥Jウ¥¥二一天作¥J中¥¥そろばんの。¥Jウ¥¥けたを/違{ちがへ}ぬ¥Jハル¥¥/白鼠{しろねつみ}。忠
義¥Jウ¥¥忠臣¥Jウ¥¥忠考の。道は一「ト」筋/真直{まつすぐ}に¥Jフシ¥¥打連「レ」御門「ン」に入にける。¥Jハルフシ¥¥程もあらさず¥J色¥¥入来るは。¥Jウ¥¥塩冶判官
高定。¥Jウ¥¥是も家来を残し置「キ」。¥Jハル¥¥乗「リ」物道に¥J中¥¥立「テ」させ。¥Jウ¥¥/譜代{ふだい}の侍「イ」早の勘平。/朽葉{くちば}¥Jウ¥¥小紋の
¥Jハル¥¥/新袴{さらばかま}。¥Jウ¥¥ざは++ざはつく御門「ン」前。¥J詞¥¥塩冶判官高定/登城{とじやう}成「リ」と音「ト」なひける。門「ン」番罷出。先「キ」程
桃「ノ」井様御登城遊ばされ御「ン」尋。只今又師直様御越「シ」にて御尋。早御入と相/述{のふ}る。ナニ勘平B早
皆々御入とや。¥J地色ウ¥¥/遅{おそ}なはりし残念「ン」と。¥Jウハル¥¥勘平一人御供にて¥Jフシ¥¥御前「ン」へこそは急「キ」行¥J地ハル¥¥奧の御殿は御/馳走{ちさう}の。
/連謡{ぢうたひ}の¥J色¥¥声/播{はり}/广{ま}がた。¥J謡¥¥高砂の浦に着にけり++。¥Jナヲス地ハル¥¥うたふ声々¥J中¥¥/門外{もんぐはい}へ。¥Jハルフシ¥¥風か持「テ」くる¥J色¥¥柳かげ。¥Jウ¥¥其
柳より/風俗{ふうぞく}は。¥Jハル¥¥まけぬ/所体{しよてい}の十八九¥J小ヲクリ¥¥松の。/緑{みどり}の/細眉{ほそまゆ}も¥Jウ¥¥かたいやしきに¥Jハル¥¥物/馴{なれ}し。きどく/帽子{ぼうし}
の/後帯{うしろおび}。¥Jウ¥¥供の奴が/挑灯{ちやうちん}は¥Jフシ¥¥塩冶が家の紋「ン」所。¥J地ハル¥¥御門「ン」前に¥J色¥¥立休らひ。¥J詞¥¥コレ奴殿。やがてもふ夜も明「ケ」る。
こなた衆は門「ン」内へは叶はぬ。爰からいんで休んでやと。¥J地ハル¥¥詞に従ひ¥J色¥¥ナイ++と¥Jフシ¥¥供の下部は帰りける。¥J地ウ¥¥内
を/覗{のぞい}て¥Jハル¥¥勘平殿は何してぞ。¥Jウ¥¥どふぞ逢たい用が有「ル」と。¥J中ハル¥¥見廻す折から/後{うしろ}かげ。¥Jウ¥¥ちらと見付「ケ」。¥J詞¥¥おかる
じやないか。勘平様逢たかつたにようこそ++。ムヽ合点の行ぬ夜中といひ。供をも連ず只一人。
さいなあ。爰X送りし供の/奴{やつこ}は先「キ」へ帰した。わし/独{ひとり}残りしは。奧様からのお使「イ」。どふぞ勘平に/逢{あふ}て
此文箱。判官様のお手に渡し。お/慮外{りよくはい}ながら此返「ン」哥をお前のお手から直「ク」に師直様へ。お渡しな
され下さりませと/伝{つた}へよ。しかし。お取込「ミ」の中/間違{まちが}ふまい物でなし。マア今宵はよしにせうと
のお詞¥J地色ウ¥¥わたしはお前に逢たい/望{のぞみ}。¥Jハル¥¥何の此哥の一「ツ」/首{しゆ}や二首。¥Jウ¥¥お届「ケ」なさるゝ程の間のない事は有「ル」
まいと。¥Jウ¥¥つゐ一「ト」走「リ」に走つてきた。¥Jフシ¥¥アヽしんどやと/吐息{といき}つく。¥J詞¥¥然らば此文箱旦那の手から師直様へ渡
せばよいしやX。¥J地色ウ¥¥どりや渡してこふ¥Jウハル¥¥待て居いといふ中「チ」に¥J色¥¥門「ン」内より。¥J詞¥¥勘平++++判官様が召「シ」まする。勘
平++。ハイハイ++只今それへ。¥J地ハル¥¥ヱヽせはしないと¥Jフシ¥¥袖ふり切て行跡へ。¥J地ハル¥¥/鯲{どぢやう}ふむ足付「キ」¥J色¥¥鷺坂伴内。¥J詞¥¥何「ン」と
おかる恋の/知恵{ちゑ}は又/格別{かくべつ}。勘平めとせゝくつて居る所を。勘平++旦那がお召「シ」と呼「ン」だはき
ついか++。師直様がそもしに頼たい事が有とおつしやる。我等はそさまにたつた一度。¥J地ウ¥¥君よ++と¥Jハル¥¥/抱{だき}付「ク」
を¥J色¥¥/突飛{つきとば}し。¥J詞¥¥コレみだらな事遊ばすな式「キ」/作法{さほう}のお家に居ながら/狼籍{らうぜき}千「ン」万「ン」。あたぶ作法な
あたふ行義と。¥J地色ウ¥¥/突退{つきのく}れば夫「レ」は/難面{つれない}。¥Jウ¥¥くらがり/紛{まぎ}れにつゐちよこ++と。¥Jウ¥¥手を取/諍{あらそ}ふ其中「チ」に。¥J詞¥¥伴
内様++師直様の/急{きう}御用。伴内様++と。¥J地ハル¥¥奴二人がうろ++/眼玉{めだま}で是はしたり¥J色¥¥伴内様。¥J詞¥¥B
前「ン」から師直様が御尋。式「キ」作法のお家に居ながら。女を/捕{とら}へあたふ行義な。あたぶ作法と。
¥J地色ウ¥¥下部が口々ヱヽ同し様に¥Jハル¥¥何ぬかすと。¥Jフシ¥¥/頬{つら}ふくらして連「レ」立行。¥J地ウ¥¥勘平跡へ¥J色¥¥入かはり。¥J詞¥¥何と今の/働{はたらき}見たか。
伴内めが一ぱいくらふてうせおつた。おれが来て旦那が/呼{よば}しやるといふと。おけ古「ル」いとぬかすが/面倒{めんだう}さ
に。奴共に酒/呑{のま}せ。古「ル」いと言さぬ此/術{てだて}。ハヽ++++まんまと/首尾{しゆび}は仕/深{ほせ}た。サア其首尾/序{ついで}にな。
¥J地ハル¥¥ちよつと++と¥J色¥¥手を取「レ」ば。¥J詞¥¥ハハテ扨はづんだマアまちやいの。何いはんすやら。何「ン」の待「ツ」事が有ぞいなア。もふ/頓{やが}
て夜が明「ケ」るわいな。¥J地ハル¥¥ぜひに++に¥Jウ¥¥ぜひなくも¥J中¥¥下地は/好{すき}也¥Jウ¥¥御/意{ゐ}はよし。¥J詞¥¥夫「レ」でも爰は人出入。¥J地ウ¥¥/奧{おく}は/謡{うたひ}の
¥Jハル¥¥声高砂。¥J謡¥¥せうこんによつてこしをすれば。¥Jナヲス詞¥¥アノ/謡{うたひ}で思ひ付「イ」た。¥J地色ウ¥¥イサ腰かけてと¥Jハル¥¥手を¥Jトル¥¥引合打連「レ」て行。
¥J地ハル¥¥/脇能{わきのう}過「キ」て御楽屋に/皷{つゞみ}の/調{しらべ}¥J中¥¥太皷の音。¥Jウ¥¥天下/泰平{たいへい}/繁昌{はんじやう}の/寿{ことぶき}/祝{いは}ふ¥Jハル¥¥直義公。¥Jウ¥¥御/機嫌{きけん}
なゝめ¥Jフシ¥¥ならざりける。¥J地色ウ¥¥若狭「ノ」助は兼ねて待「ツ」師直/遅{おそ}しと御殿の内。¥Jハル¥¥奧を/窺{うかゞ}ふ長/袴{はかま}の/紐{ひも}しめくゝ
り気/配{くばり}し。¥Jウハル¥¥己「レ」師直真「ツ」二つと刀のこゐ口/息{いき}を/詰{つめ}。¥Jフシ¥¥待「ツ」共しらぬ。¥J地色ウ¥¥師直主従¥Jハル色¥¥遠目に見付「ケ」。¥J詞¥¥是は++
若狭助殿。扨々お早い御/登城{とじやう}。イヤハヤ/我折{がおり}ました。我等/閉口{へいこう}++。イヤ閉口/序{ついで}に貴殿に/言訳{いひわけ}致し。
お/詫{わひ}申「ス」事が有と。¥J地ハル¥¥両腰くはらりと¥J色¥¥投出し。¥J詞¥¥若狭助殿。改めて申さねばならぬ一「ト」通「リ」。/日外{いつぞや}D
が岡で。/拙者{せつしや}が申た過言{くはごん}。ヲヽお腹が立「ツ」たで有ふ尤じや。がそこをお詫。其時はどふやらした詞
の間/違{ちが}でつゐ申「シ」た。我等一「ツ」/生{しやう}の/麁怱{そこつ}武士がコレ手をさげるまつびら++。仮令{けれう}其元「ト」が物
/馴{なれ}たお人なりやこそ。外々のうろたへ者で見さつしやれ。此師直真「ツ」二つこはや++。有やうが其/節{せつ}
貴殿「ン」の/後{うしろ}かげ。手を合して/拝{おかみ}ましたアハヽヽ。アヽ年「シ」寄「ル」とやくたい++。年「シ」にめんじて御免「ン」++。是さ++武士が
刀を投出し手を合す。是程に申「ス」のを聞入ぬ貴公でもないはさ。/兎角幾重{とかくいくゑ}にも/誤{あやま}り++。
伴内倶々に¥J地色ウ¥¥お/詫{わび}++と。¥Jウ¥¥金がいはする/追従{ついしやう}とは夢にも¥Jハル¥¥しらぬ若狭「ノ」助。¥Jウ¥¥力「キ」みし/腕{うで}も/拍子{ひやうし}抜「ケ」。
¥Jウ¥¥今/更{さら}抜「ク」に¥Jウ¥¥ぬかれもせず。¥Jウ¥¥ねたば合せし刀の手前¥J中¥¥/喜{うつむき}し¥Jウ¥¥/思案{しあん}顔。¥Jハル¥¥小/柴{しば}のかげに本蔵が。/瞼{またゝき}
もせず¥Jウフシ¥¥守りゐる。¥J詞¥¥ナニ伴内此塩冶はなぜ遅{おそ}い。若狭「ノ」助殿とはきつい/違{ちが}ひ。扨々ふ行義{きやうき}者。今に
おいて頬出しせぬ。主が主なれば/家老{からう}で候とて。諸事に/細{こま}心の付「ク」やつが/独{ひつとり}もない。いざ++若狭
殿御前へ御供致そ。サアお立なされ。サアササア師直め/誤{あやま}つておるぞ。コリヤ爰な/P{すい}め++。P様め。
イヤ若狭「ノ」助B前「ン」から。ちと心/悪{わる}うござる。マア先「キ」へ。何「ン」とした++/腹痛{ふくつう}か。コレサ伴内お/背{せなか}++。お薬
しんじよかな。イヤ++夫「レ」程にもござらぬ。然らば少「シ」の内おくつろぎ。御前「ン」の/首尾{しゆび}は我等がよい様に申「シ」
上る。伴内一「ト」間へ御供申せと¥Jハル¥¥主従寄「ツ」てお/輦{てくるま}に/迷惑{めいわく}ながら若狭助。¥Jウ¥¥是はと思へどぜひなく
も¥J中¥¥奧の一「ト」間へ¥Jハル¥¥入ければ。アヽ¥Jウ¥¥もふ/楽{らく}じやと。本蔵は。天を¥Jウ¥¥/拝{はい}し地を拝し¥Jフシ¥¥お次の間にそ/扣{ひか}へ居る。¥J地ウ¥¥程も
あらさず¥Jハル¥¥塩冶判官。御前「ン」へ通る長/廊下{らうか}¥Jウ色¥¥師直呼かけ遅{おそ}し++。¥J詞¥¥何と心得てござる。今日は正七つ
時と。/先刻{せんこく}から申渡したでないか。成「ル」程/遅{おそ}なはりしは/不調法{ぶてうほう}去ながら。御前「ン」へ出るはまだ間も
あらんと。¥J地ハル¥¥袂より¥J色¥¥文箱取出し。¥J詞¥¥B前「ン」手前の家来が。貴公へお渡し申くれよ。則「チ」奧かほよ方より参「リ」し
と。¥J地ハル¥¥渡せば受「ケ」取¥J色¥¥成程++。¥J詞¥¥イヤ其元の御内宝は扨々心がけがござるは。手前が和哥の道に心を
寄るを聞。/添削{てんさく}を頼「ム」と有。¥J地ハル¥¥定「メ」て其事ならんと¥J色¥¥押「シ」ひらき。¥J詞¥¥さなきだに。おもきが上のさよ衣。わが
つまならぬつまな/重{かさ}ねそ。ハア是は新/古今{こきん}の哥。此/古哥{こか}に添削とは。ムヽ++¥J地ウ¥¥と/思案{しあん}の内。¥Jウ¥¥我「カ」
恋の叶はぬ/験{しるし}。¥Jウ¥¥扨は夫「ト」に打明「ケ」しと¥Jハル¥¥思ふ/怒{いかり}を¥J色¥¥さあらぬ顔。¥J詞¥¥判官殿。此哥御らうじたで御さらふ。イヤ
只今見ました。ムヽ手前が/読{よむ}のを。アヽ貴殿「ン」の奧方はきつい/貞女{ていぢよ}でござる。ちよつと/遣{つか}はさるゝ
哥が是じや。つまならぬつまな/重{かさ}ねそ。アヽ貞女++。ア其元はあやかり物。/登城{とじやう}も/遅{おそ}な
はる筈の事。内に計「リ」へばり付「イ」てござるによつて。御前の方はお/構{かまひ}ないじやと。¥J地色ウ¥¥/当{あて}こする/雑言{ざうごん}
/過言{くはごん}。¥Jウ¥¥あちらの/喧嘩{けんくは}の/門違{かどちがひ}とは。¥Jハル¥¥判官さらに合点行ず。¥Jウ¥¥むつとせしが¥J色¥¥押「シ」しづめ。¥J詞¥¥ハヽ++++是は++。師直
殿には御酒/機嫌{きげん}か。御酒参つたの。いつもらしやつた。イヤいつ呑「ミ」ました。御酒下されても/呑{のま}い
でも。/勤{つとめ}る所は/急度{きつと}勤る。貴公はなぜ遅かつたの。御酒参つたか。イヤ内にへばり付「イ」てござつたか。
貴殿「ン」より若狭「ノ」助殿アヽ/格別{かくべつ}勤「メ」られます。イヤ又其元「ト」の奧方は貞女といひ。御/器量{きりやう}
と申「シ」。手跡は見事。御/自慢{じまん}なされ。むつとなされなうそはないはさ。今「ン」日御前「ン」にはお取「リ」/込{こみ}。
手前迚も同前「ン」。其中へ/鼻毛{はなげ}らしい。イヤ是は手前が奧が哥でござる。夫「レ」程内が大切「ツ」な
ら御出御無用。/惣体{そうたい}貴様の様な。内に計「リ」居る者を。井戸の/鮒{ふな}じやといふ/譬{たとへ}が有「ル」。聞「イ」ておか
しやれ。彼鮒めが/僅{わづか}三尺か四尺の井の内を。天にも地にもない様に思ふて。ふ/断{たん}外を見る事
がない。所に彼井戸がへに/釣瓶{つるべ}に付「イ」て上ります。夫「レ」を川へ/放{はな}しやると。何が内に計「リ」居る奴「ツ」しや
によつて。悦んで/途{ど}を/失{うしな}ひ。/橋杭{はしぐひ}で鼻を打て。/即{そく}座ざにぴり++++++と死ます。貴様も/丁{てう}
と鮒と同し事ハヽ++++++と¥J地ウフシ¥¥出ほうだい。¥J地ハル¥¥判官腹に¥J色¥¥すへ兼。¥J詞¥¥こりやこなた/狂気{きやうき}めさつたか。イヤ気が
/違{ちが}ふたか師直。シヤこいつ。武士をとらへて気違「イ」とは。/出頭{しゆつとう}第一の高「ノ」師直。ムヽすりや今の
/悪言{あくごん}は本「ン」性よな。くどい++。又本性なりやどふする。¥J地ハル¥¥ヲヽかうすると/抜{ぬき}討「チ」に/真向{まつかう}へ切付「ク」る/眉
間{みけん}の¥J色¥¥大/疵{きず}。¥Jウ¥¥是はと/沈{しづ}む身のかはし。¥Jウ¥¥/鳥帽子{ゑぼし}の/頭{かしら}二つに切「リ」。又¥Jウ¥¥切「リ」かゝるを抜「ケ」つ¥Jハル¥¥くゞりつ¥Jウ¥¥迯「ケ」廻る折も
あれ。¥Jウ¥¥お次に扣へし本蔵走「リ」出て¥J色¥¥押「シ」とゞめ。¥J詞¥¥コレ判官様御/短慮{たんりよ}と。¥J地ハル¥¥抱とむる其隙に師直は。
舘をさしてこけつ/転{まろ}ひつ¥J色¥¥迯行ば。¥Jウ¥¥己「レ」師直¥Jハル¥¥真「ツ」二つ。¥Jウ¥¥放せ本蔵放しやれと¥Jウ¥¥せり合「フ」内。¥Jウ¥¥舘も
俄に¥J中¥¥/騒{さはぎ}出し。¥Jウ¥¥家中の諸武士大名小名。押「サ」へて刀もぎ取やら。¥Jウ¥¥師直を/介抱{かいほう}やら¥Jハル¥¥上を下へと。¥J三重上¥¥
S立さはぐ。¥J地ハル¥¥表「テ」御門「ン」/裏{うら}御門「ン」。¥Jウ¥¥両方打たる舘の/騒動{さうどう}/挑灯{ちやうちん}ひらめく¥J色¥¥大さはぎ。¥Jウ¥¥早の勘平うろ
++眼走「リ」¥Jハル¥¥帰つて裏御門「ン」。/砕{くたけ}よ/破{われ}よと打たゝき¥J色¥¥大声上¥J詞ノリ¥¥塩冶判官の御内早の勘平主人「ン」
の/安否{あんひ}心元「ト」なし爰明てたべ¥J地ハル¥¥早く++と¥Jフシ¥¥呼はつたり。¥J地ハル¥¥門「ン」内よりも¥J色¥¥声高々。¥J詞¥¥御用あらば表「テ」へ廻れ
爰は裏門「ン」。成「ル」程裏門合点。表「テ」御門「ン」は家中の大勢早馬にて寄「リ」付「カ」れず。/喧嘩{けんくわ}の様子
は何「ン」と++。喧嘩の次第相/済{すん}だ。/出頭{しゆつとう}の師直様へ/慮外{りよくはい}致せし/科{とが}によつて。塩冶判官は/閉門{へいもん}
仰付「ケ」られ。/網{あみ}乗「リ」物にてたつた今¥J地ウ¥¥帰られしと¥Jハル¥¥聞「ク」よりハア¥J色¥¥なむ三宝。¥Jハル¥¥お屋敷「キ」へと¥J色¥¥走「リ」かゝつて¥Jウ¥¥イヤ++++。
¥Jウ¥¥閉門「ン」ならば舘へは猶帰られしと¥Jハル¥¥行つ。戻りつ¥J色¥¥/思案{しあん}/B中{さいちう}。¥Jウ¥¥/M{こしもと}おかる道にてはぐれ¥J色¥¥ヤア勘平殿。¥J詞¥¥様
子は残らず聞ました。¥J地色ハル¥¥こりや何「ン」とせうどふせうと¥Jスヱ¥¥取付。¥J中ハル色¥¥歎くを取「ツ」て/突退{つきのけ}。¥J詞¥¥ヱヽめろ++とほへ/頬{づら}。コリヤ
勘平が武士は捨「タ」つたはやい。¥J地色ハル¥¥もふ是Xと刀の/柄{つか}コレ色待「ツ」て下され。¥J詞¥¥こりやうろたへてか勘平殿。
ヲヽうろたへた。是がうろたへずに居られふか。主人「ン」一/生{しやう}/懸命{けんめい}の場にも有合さず/剰{あまつさへ}。/囚人{めしうと}同
前「ン」の/網{あみ}乗物お屋敷「キ」は/閉門{へいもん}。其家来は色にふけり御供にはづれしと人中へ。両腰さして
出られふか爰を放せマヽヽヽ待「ツ」て下さんせ。尤じや道理じやが。其うろたへ武士には誰がした。/皆{みんな}
わしが心から死る道ならおまへよりわたしが先「キ」へ死ねばならぬ。今お前が死「ン」だらばたが侍じやと
/誉{ほめ}まする。爰をとつくりと聞分「ケ」て。わたしが親里へ一先「ツ」来て下さんせ。とゝ様もかゝ様も
/在所{ざいしよ}でこそ有たのもしい人。もふかう成「リ」た¥J地ハル¥¥/因果{ゐんぐは}じやと思ふて¥Jウ¥¥女房のいふ事も。¥Jウ¥¥聞「イ」て
下され勘平殿と¥Jウ¥¥わつと¥Jスヱ¥¥計に。¥J中¥¥泣しづむ。¥J詞¥¥そふじや尤。そちは新参「ン」なれば/委細{ゐさい}の事は得しる
まい。お家の/執権{しつけん}大/星{ぼし}/由良{ゆら}「ノ」助殿。いまだ本「ン」国より帰られず。/帰国{きこく}を待「ツ」てお/詫{わび}せん。サア
¥J地色ハル¥¥一「ツ」時成共急がんと身/拵{こしら}へする所へ。¥J地ハル¥¥鷺坂伴内家来引連「レ」¥J色¥¥かけ出。¥J詞ノル¥¥ヤア勘平うぬが主
人判官師直様へ/慮外{りよぐはい}を/働{はたらき}かすり/疵負{きずおほせ}し/科{とが}によつて屋敷は閉門「ン」。追付「ケ」首か/飛{とぶ}は知「レ」
た事。サア/腕{うで}廻せ。¥J地ウ¥¥連「レ」帰つてなぶり切¥Jハル¥¥/覚悟{かくご}ひろげと¥J色¥¥ひしめけば。ヤア¥J詞ノリ¥¥よい所へ鷺坂伴内。己「レ」
一「チ」/羽{は}で喰{くひ}たらねど。勘平が/腕{うで}の/細{ほそ}ねぶか。/料理{りやうり}/塩梅{あんばい}くふて見よ。¥J地色ウ¥¥イヤ物ないはすな家来
共¥Jハル¥¥/畏{かしこま}つたと両方より。¥Jウ¥¥/捕{とつ}たとかゝるをまつかせとかいくゞり。¥Jウ¥¥両手に両腕/捻{ねぢ}上はつし++と¥Jフシ¥¥
/蹴{け}返せば。¥J地ウ¥¥替つて切込「ム」切「ツ」先「キ」を¥Jハル¥¥刀の/鞘{さや}にて丁ど受「ケ」。¥Jウ¥¥廻つてくるを/鐺{こじり}と/柄{つか}にてのつけに
そらし。¥Jウ¥¥四人一「ツ」所に切かゝるを¥Jハルカヽリ¥¥右「キ」と左「リ」へ¥Jウ¥¥一「ツ」時に。¥Jウ¥¥でんがく返しにばた++++と打すへられ。¥Jウ¥¥皆ちり※※に¥J色¥¥行
跡へ。¥Jウ¥¥伴内いらつて切かくる引「ツ」ぱづしそつ首/握{にぎ}り。¥Jウハル¥¥大地へどうどもんどり打せしつかと¥J色¥¥/踏{ふみ}付「ケ」。¥J詞¥¥サア
どふせうとこつちの儘。/突{つか}ふか切「テ」ふか¥J地色ウ¥¥なぶり殺しと¥Jハル色¥¥ふり上る刀に/縋{すがつ}て。¥J詞¥¥コレ++そいつ殺すとお/詫{わび}
の/邪广{じやま}。¥J地色ウ¥¥もふよいわいなと¥Jハル¥¥留る間に足の下をばこそ++と。¥Jウ¥¥/尻{しり}に/尾{を}のない鷺坂は。命
から※※¥Jフシ¥¥迯て行。¥J地ハル¥¥ヱヽ/残念{ざんねん}++去ながら。¥Jウ¥¥きやつをばらさばふ忠の¥J色¥¥ふ忠。¥Jウ¥¥一先「ツ」夫婦が身を隠し
¥Jハル¥¥/時節{じせつ}を。¥Jウ¥¥待「ツ」て願ふて見ん。¥Jウ¥¥/B早{もはや}明「ケ」六つ東がしらむ横雲に。¥J上¥¥ねぐらを/離{はな}れ¥Jハルウ¥¥/飛{とぶ}からす
¥Jウキン¥¥かはい++の女夫連「レ」道は。¥Jウ¥¥急げど跡へ引「ク」。¥Jウ¥¥主人の御身いかゞぞとあんじ。行こそ。¥J三重上¥¥S浮世なれ*

江木鶴子 Mail: egi@ube-c.ac.jp
前田桂子 Mail:maeda@frontier-u.jp